2016.10.31
中国人客を感動させる日本の医療サービス《1》
ダイヤモンドオンライン 2016年2月4日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
先日、BS11の報道ライブ21というテレビ番組に、ゲストとして出演した。テーマは、ホットなインバウンドだ。もう一人のゲストは三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティングの妹尾康志主任研究員である
番組の中で、妹尾氏が、日本のメディカル・ツーリズムに触れ、つぎのようなコメントを出した。
「日本のメディカル・ツーリズムはいっとき、思った通りに進まなかったが、この頃は、たいへん人気を得ている」
確かにそうだったと思う。メディカル・ツーリズムをスタートさせたとき、日本側は中国の富裕層つまり金持ちの人たちだけをターゲットとする傾向があった。そのため、観光商品としてはあまり市場を広げることができなかった。
中国においても特別の医療サービスを得られる環境にいる金持ちの人たちは、日本が期待していたほど日本の医療サービスに関心を払わなかった。実際、日本の医療サービスにより熱いまなざしを注いだのは中国の中産階級層の人たちだ。
治療を受けるための
病院の受付番号もカネしだい
中国では、医療分野がもっとも失敗した分野の一つ、と言われている。今年の1月下旬、ある動画が中国のネット世界で信じられないほどの勢いでシェアされていった。
携帯電話で撮影したこの動画のなかでは、ある若い女性が北京の広安門中医院という病院の玄関先で、サービス不在だけではなく、カネばかり追い求める病院側の体制の問題点とサービスの悪さを痛烈に批判している。
1月中旬のことだ。東北部に住むこの若い女性は病気にかかったお母さんをその病院の専門医に診てもらおうと考えた。その医師の診察受付番号をもらうために、病院で夜を徹して列に並んだ。彼女の順位は2番目だったが、翌日の朝、病院が受付番号の配布を始めたときにはすでに、その受付番号はなんと全部配布されてしまったのだ。
日本ではとても信じられないことだが、中国の病院に行くと、治療を受ける資格を意味するこの受付番号を売買するダフ屋が暗躍していることにすぐに気付くことができる。受付番号をもらうときに、病院側に外来診療料を意味する「掛号費」を支払わなければならない。専門医を指定した場合は、その金額が300~400元(約5400~7200円)くらいになっている。しかし、徹夜して列に並んでもこの受付番号を入手できない人たちは仕方なくダフ屋から入手するしかない。金額は10倍になってしまう。
東北部からやってきたこの若い女性はあまりのひどさに憤慨して、病院の玄関先でこのおかしな体制を批判した。「ここは首都の北京でしょう!」という信頼を裏切られた憤慨が中国全土から共鳴を得て、動画があっという間に巷の話題となった。
不作為だった病院側や警察側は世論の重圧を感じ、慌てて受付番号専門のダフ屋の退治に動き出した。これで問題が解決できるとはとても思わないが、中国の医療問題の深刻さの一端が逆にクローズアップされたと思う。