2021.09.8
A-oralscan2導入レポートvol8
A-Oralscan2 導入レポートVol8
執筆者
合同会社キャドラボジャパン
代表社員 古澤 清己 さん
あなたは歯科技工所のオーナーだとしましょう.ここ数年のデジタル化の波にも乗ることが出来て,歯科技工用のCADCAMをバリバリ使い倒してるとします.
あるとき,歯科器械の営業さんがあなたの歯科技工所を訪ねてきて,こんなことを言ったとします.
「口腔内スキャナはいかがですか?」
歯科技工所のオーナーであるあなたには思いも寄らない提案です.
え?口腔内スキャナは歯科医院向けでしょ?
ウチは技工所だし関係ないよ.
見当違いの営業だな.
そう思ってしまったあなた、残念!チャンスを逃しているかもしれません.
そして、その口腔内スキャナを勧めてきた営業マンは優秀かもしれません.
口腔内スキャナは通常「診療室用」との認識ですが,実は歯科医院だけでなく、歯科技工所でも十分に活用できるうえ,歯科技工所用に作られたのではないかと錯覚するほどハンドリングが良いのです.
本稿では口腔内スキャナを歯科技工所で使うメリット,そしてなぜ口腔内スキャナこそ歯科技工に「使える」のかを3つを紹介したいと思います.
① スキャンが早い
口腔内スキャナは狙ったところをピンポイントで連続してスキャンを行うため,手早く作業出来ます.スキャンしていくスピードだけでなく,そのスキャンプロセスもスピード感が違います.
通常,卓上スキャナ(技工用のスキャナを以下「卓上スキャナ」と表現します)でクラウン1本を製作するためには
「作業側」「対合歯」「支台歯」の3つの模型と「咬合関係」の4回スキャンを行います.
これが口腔内スキャンだと
「作業側」「対合歯」「咬合関係」の3回.たった一回減っただけだと思われるかもしれませんが,回数だけではなく,スキャンにかかる手間が違います.
例えば対合関係のスキャンでは,口腔内スキャナでは上下模型を手で支えていればスキャン出来るのに対し,卓上スキャナでは上下模型を咬合器やビンディングワイヤなどで固定しないとスキャン出来ません.
自分の実測値ですが,卓上スキャナでの平均的なスキャン時間は1ケースあたり5〜10分.それに対して口腔内スキャナではなんと平均2分.驚異的な速さです.
② 卓上スキャナで撮れないところが撮れる
卓上スキャナで撮りたいところが撮れなくて,何度もスキャナの「追加スキャン」ボタンを押した方も多いのではないでしょうか.
卓上スキャナでは被スキャン体をテーブルに載せ,テーブルを回転させながら複数回スキャンを行い,得られたメッシュをスキャンソフトが合成して一つのメッシュ(立体データ)を得ます.ところが,テーブルに被スキャン体が固定されているため,テーブル角度の限界で死角が発生して,撮れない部分が発生します.
例えば支台歯のトリミングのエッジ下の部分などは卓上スキャナの苦手な部分です.
口腔内スキャナではこういった角度による苦手部位は存在しません.
左図は卓上スキャナでのダブルスキャンのためのワックスアップをスキャン結果.
インプラント上部構造体のオーバーハング下部がスキャナの限界によってスキャンできていない.
右図は口腔内スキャナでのスキャン結果.オーバーハング下まで回り込んでスキャンできている.
③ 閉じたメッシュが撮れる
「閉じたメッシュ」と言われてもピンと来ない方が多いと思います.私的には,この閉じたメッシュがスキャン出来るということが,歯科用スキャナにおいて革命レベルだと思っています.卓上スキャナでは「オモテと裏をスキャンし,2つ以上のデータを1つに合成する」といった高度な知識や技を使わないと出来なかったことがいともたやすく出来るのです.
先述したとおり口腔内スキャナには苦手部位がありません.口腔内スキャナは卓上スキャナのように被スキャン体がテーブルに固定されていないため,被スキャン体をぐるっと回り込みスキャンすることが可能です.つまり,途切れることなく,物体を穴の空いていないデータ=閉じたメッシュを撮ることが出来ます.
と言っても,閉じたメッシュがスキャン出来るとどんなメリットがあるのかと疑問に思うことでしょう.データは「閉じて」いないと3Dプリントやミリングが出来ません.クラウンなどを設計した時,閉じたデータを作っているという実感はありませんが,この閉じる工程をexocadなどの歯科用デザインソフトがやってくれて,はじめて立体化出来るデータが出来るのです.
つまり,現状ではスキャンしただけではプリントやミリング出来るデータにはなっていないのです.
それが,口腔内スキャナを使うとスキャンしただけでプリント出来るデータが得られる.これは大きなエポックです.例えば根管付きのクラウンをワックスアップしてスキャンしてそのデータをそのままミリング.あるいは模型をスキャンして,モデルクリエイターなどを使わずにプリントなど,使い道に可能性が広がります.
左図は「閉じていない」データ.右図は「閉じた」データ.口腔内スキャナを使用すればこのように閉じたデータが一発で撮れる.
今,歯科技工所側で口腔内スキャナに完熟しておけば,歯科医院から新規に口腔内スキャナを導入したいと相談があっても,即対応可能.なにしろ,歯科医院側で使う機械を熟知しているのですからなにからなにまでスムースです.
クラウンだけでなく,デンチャー関係にも数多くのベネフィットが存在します.また,口腔内スキャナのテクスチャ同時撮影機能を生かして,歯科衛生士業務にも活用出来ます.
ただし,卓上スキャナと比べてデメリットもあります.
例えば,卓上スキャナでは,テーブルが回転している間は人の手が離れています.このわずかな時間を別の作業に充てることで,マルチタスクが可能になります.一方口腔内スキャナはずっと人が操作をしていないと完了しません
どちらが優れているかではなく両者の良いところを理解し,連携させてうまく使えば効果は倍以上となります.
当然ではありますが,使いこなすためのトレーニングも欠かせません.
いろいろなものをスキャンして,口腔内スキャナのスキャン特性を理解しておきましょう.
またスキャン用のソフトの仕組みを理解し,歯科技工で使えるようにソフトを「騙す」工夫も必要です.
図 筆者が口腔内スキャナのトレーニングに使用したモデル
筆者は敢えて「歯」以外のものを使用している.口腔内スキャナは口腔内をスキャンするのに特化したスキャンエンジンのため上手く撮れてしまう.敢えて歯以外のもの(工業的な平面や透明度の違う素材,不規則な形などのモデル)を撮ることで,口腔内スキャナの「得意.不得意」を顕在化させ,それに対応することでスキャンのスキルが上がる.
口腔内スキャナは値段がネックとなり,購入の障壁を超えることがなかなか出来ませんでした.ところがここ数年,ブロックバスターとも言える価格革命によって,口腔内スキャナが入手しやすくなりました.
まだまだ他の歯科技工所では口腔内スキャナに精通していない今,あなたの歯科技工所で口腔内スキャナを導入するチャンスではないでしょうか.
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